詩聖ダンテを写実的に表現したヴェスヴィオ火山のラーヴァを使ったカメオ
イタリアを代表する詩人ダンテ・アリギエーリがモチーフとしたカメオ。
詩人の象徴である月桂冠、特徴的なコイフと呼ばれる頭巾を帽子を被っています。
月桂冠は芸術の神アポロンと結ぶ付き、勝利や栄誉の象徴であると共に、詩や学芸の卓越した者に与えられました、そのため、このカメオにおいてもダンテが被っています。
使用されているのはラーヴァというヴェスビオ火山の溶岩です。グランドツアーでポンペイを訪れた貴族は、その記念にラーヴァのカメオを買い求めました。1870年頃になるとナポリ近郊のカメオの生産地であるトッレデルグレコにおいても貝を材料としたカメオが主流になります。そのため、ラーヴァの割合も減少しますが19世紀後期まで人気のあった素材でした。
ラーヴァにおいても多くの作品はギリシャ・ローマ神話の神々でしたが、グランドツアーの旅行者向けにイタリアの偉人をモチーフとしたカメオも作られました。
ダンテを筆頭にペトラルカ、ボッカッチョなどのイタリア文学三冠や
ルネサンスの偉大な芸術家ミケランジェロやラファエロ
ガリレオ等
イタリアを代表する歴史上の偉人が好まれました。
19世紀初頭から1870年頃まで続くイタリア統一運動において、ダンテは、イタリア民族の精神的な象徴でもありました。イタリア文化への誇り、統一国家への象徴、偉大な詩人への敬意などの意味合いを込めて制作されたカメオの一つであったと考えられます。
それだからこその写実性に富んだこの彫りになっていると思えます。詩聖ダンテを記念的な・愛国的な作品でしょう。
先日、ナポリを訪れた際にも広場の中央にダンテの像が聳えており、同様の説明をタクシーの運転手から伺いました。
尚、フレームはシンプルに素材を囲んだ真鍮製にゴールドプレートが施されたものであり、当時のラーヴァ素材のカメオに多く使用されていた形状です。
以前にもダンテのカメオを扱ったことがありましたが、この作品のダンテはその特徴的な鼻の形と意志の強さを示すような表情が印象的です。また、背景に浮き彫りでDANTEと文字が刻まれているのも珍しいです。
シェルカメオにはない、厚みを生かした彫りにより、表情に陰影が生まれ、その苦難に満ちた人生が伝わってくるようです。祖国フィレンツェを追われながらも、『神曲』を記し、イタリア文化の礎を築いたダンテ。
至高の詩人をモチーフとした歴史的な価値のあるカメオです。
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